お侍様 小劇場

    “きっとのお帰りをお待ちして(お侍 番外編 12)
 



    おまけ …というか蛇足というか



 どんなに甘く酔わされたとて、翌朝の定時にはしゃっきりと目を覚まし。御主を起こさぬよう、そぉっと寝室から抜け出すと、顔を洗って、髪もきりりと結い直し。新聞を取り込みの、朝餉の支度や洗濯物に取り掛かりの、日頃と何ら変わらない朝をこなされる辺りが、やはりやはり良妻賢母の鑑でおわす七郎次さんだったりし。
「…。」
「おや、久蔵殿。おはようございます♪」
 夜は早寝だが、その分 朝には強い次男坊が。起き出したそのついで、やはり顔を洗って制服に着替えてから、二階の窓にかかるカーテンを全て引き開けて、階下へと降りて来るのが7時前。相変わらずにお顔に間近い前髪やら横鬢やらを湿らせておいでなの、差し向かいになり、ど〜らとタオルでごしごしと拭って差し上げ。ふんわりした金の綿毛を手櫛で整えてやっておれば。カウンターの向こうに見えた戸口前、リビングへ入られる勘兵衛様の姿が横切ったので、
「新聞を持って行って差し上げなさい。」
「…。(頷)」
 年齢相応の重厚さ、威容に満ちた御主ゆえ、甘えたくともどこかで躊躇が挟まってしまうのか。はたまた、矜持の堅い男同士という間柄ならではな何かが働き、素直に近寄るには何かしら理由が要りようになるものなのか。自分への懐きように比すれば格段の差で、勘兵衛様との触れ合いへ、当初はちょいと足踏みを見せてしまうことが多かった次男坊ゆえ。何かにつけてのこまごまと、用事を言いつけてやったその名残り。今では言われずとも寄ってゆき、行き掛けの駄賃かわしわしと、畏れ多くも…というか高校生にもなって、顎にたくわえておいでのお髭を撫でたり、相手のお膝へ跨がりまでする甘えようを頓着なしに発揮する、なかなかに傍若無人な皇子様だったりし。まだ畳まれたまんまだった新聞をテーブルの上から手に取ると、刳り貫きにてつながった隣りのリビングまでを持ってゆく。おお済まぬなとか何とかやり取りをしている声を聞きつつ、大根の千六本に刻んだ油揚というお味噌汁の味をみて、よしよしと満足したところで、
“よっし、完成。”
 今朝は出し巻き玉子にブロッコリーとニンジンの茹でたの、開きアジと大根おろしに、レタスとハムをくるんと巻いたのガラス鉢へと幾つも盛りつけた“ブーケサラダ”という朝ご飯。さあさ出来ましたよとお声をかけつつ、炊飯器と鍋を乗っけたワゴンをテーブル間近まで押してゆけば、
「…よいか? 久蔵。留守中を頼んだぞ?」
 勘兵衛の声でのそんなお言いようが聞こえて来たので。ああ、明日からの“出張”のお話をしておられたのだなと、そこまではさしたる感慨もないままに聞き流していた七郎次だったが、

 「この家は元より、七郎次もまた、お主が護らねばならぬ。よしか?」
 「…。(頷)」
 「ちょっと待って下さいましな。」

 肩を並べてダイニングまで、入って来つつの彼らの会話に…何ですかそりゃと、手にしていたおシャモジがついつい止まったおっ母様。
「何だ?」
「アタシまでってのは大仰じゃあありませんか?」
 ホントの妻女、か弱き女性ならともかくも。見た目の優男風なところを大きく裏切って、これでも投げる方じゃあない武道の槍術を、一通りは納めている身だってのに。それを護れとは、冗談にも程ってものがありますよと憤慨半分に言い返せば、
「何を言うか。」
 そちら様も本気の本気でのお言葉だったか、負けてはいないぞと真摯なお顔のままに抗弁の構えを見せる壮年殿の傍らで、
「……。」
 久蔵殿まで大真面目なお顔でうんうんと深々頷いており。大体お主はその腕の程への覚えを過信してか、訪問者があれば気安く表へ出てしまうだろうが。昨今では、強引な訪問販売のみならず、宅配業者を装っての強盗や、果ては欧米ばりな怨嗟なきシリアルキラーまでもが現れているというに、そんな無防備をやらかしていかがするか…と。

 “何でそんなことまで御存知なのだろか…。”

 妙な疑問を残しつつ、朝っぱらから妙なお説教をされてしまったおっ母様だったりしたそうな。






  〜Fine〜  08.2.26.


  *勘兵衛様が久蔵さんへ余計な警戒をわざわざ言い置いたのは、
   そうしておけば、逆に シチさんの側は
   久蔵さんへ色々案じさせまいと思ってのこと、
   肩に力を入れて気張ることがなくなると思ったからでございまし。

    “そうでもせぬと…。”

   自分でも気づかぬ種の意識する前からの緊張とそれから、
   そこはやはり、多少は寂しく思っての傷心とから。
   少なくはない疲弊を抱える彼だと知っている。
   ここ最近の出張でも、
   そのたび、心なしか消耗したお顔で出迎えてくれる彼だったりするからで。

   そんな訳での、在宅中の訪問者へのチェックや、夜の戸締まりはともかく、

   「何も寝間でまで護らずともいいものを。」
   「…。///////////
   「何で知ってんですか、勘兵衛様。///////////

   確かに…ついつい供寝、もとえ添い寝もしましたが、
   不在だったお人が何でまた、居なかった間のことを御存知なのか。

   「よもや隠しカメラとか、仕掛けて行ったんじゃあ?」
   「そんなものを仕掛けずとも、寝床の具合が変わっておるからすぐ判るわ。」


    ―― それはそれで威張れませんて、勘兵衛様。
(苦笑)



      キリがないので、ここらで どっとはらい。
(おいおい)

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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